平成25年の年頭にあたって

一般社団法人 構造調査コンサルティング協会会長
赤木 久眞
(あかぎ ひさのぶ)
平成25年の年頭にあたり、ごあいさつ申し上げます。
構造調査コンサルティング協会(STREC:ストレック)は、建築・土木構造物の構造設計、構造調査、耐震診断及び耐震改修等のエキスパート企業集団として、1989年の設立以来、公益的な事業を通して技術力の向上・普及を図り、既存構造物の安全性を確保して良質な社会資産としての価値を高めるための活動を行って参りました。本年も、構造物の安全・安心に関わる諸問題に対して、幅広く各種の施策を企画実施し、皆様に役立つ活動を目指して参りたいと考えております。
東日本大震災が発生してまもなく2年になります。当協会では大震災に際して、ただちに災害特別本部を立ち上げ、調査や復旧等に対応できる体制を整え、耐震改修済の被災建物の安全性調査をはじめ、津波被害、地震動特性、天井被害、液状化被害などの技術情報の収集・共有、自衛隊など被災現場で救助・復旧に携わられた方々から当時の話を伺う機会を得るなどの活動を行って参りました。また1年余り経った時点で、今後の活動につなげるため、おもに津波により被災した現地、仙台、石巻、女川、南三陸、気仙沼、陸前高田、大船渡、釜石などの三陸海岸、最近では茨城県北部、福島県南部の太平洋岸を回り、復旧・復興の様子と被災時の状況の聞き取り調査などを行いました。
震災復興は未だ途上にありますが、一方では次なる大地震の発生、南海トラフ巨大地震、首都直下地震の逼迫性が危惧されており、その減災に向けて、今回の大震災に謙虚に学び、教訓を生かしていくことが我々の使命と考えております。耐震に関するエキスパートである我々が、今後の安心して暮らせる持続可能な社会の構築へのカギを握っているとの認識を新たにしているところです。
東日本大震災では、構造躯体に加えて非構造部材や基礎・地盤、長周期地震動、さらには津波も含めた「総合耐震性確保」の重要性とその緊急性を突きつけられました。東京都においても、緊急輸送道路の沿道建物耐震改修など、高度な防災都市を実現するための既存構造物の耐震化施策がますます加速される状況となっております。こうした動きは大規模地震の想定される関東周辺地域や地方都市も同様であり、総合的な耐震安全性確保への要請が大きくなってきております。このような状況下において、当協会では社会の要請に応えるためにも、早急に耐震診断・改修設計はじめ関連する構造技術の向上・普及を図り、技術者を育成していく必要があります。
当協会では、1995年阪神・淡路大震災の直後から、既存構造物の耐震診断・耐震改修業務の内容を評価・判定する、学識経験者で組織された「構造物評定委員会」を常設して、文部科学省、東京都から評定機関として認定をいただき、15年余りで首都圏を中心に500棟を超える学校、庁舎、共同住宅等の評定を行い、耐震化事業の品質確保に貢献して参りました。技術マニュアル類の編集・出版や、建物管理者・利用者を対象とした第三者的立場での無料相談も行っております。昨年9月には、「既存建築物の耐震診断・耐震補強設計マニュアル」を改定し、2012年版を(一社)建築研究振興協会、横浜市建築設計協同組合、(社)埼玉建築設計監理協会と共同で刊行いたしました。
また、これまで総棟数約2千棟を超える既存中低層共同住宅の耐震化支援などを会員各社において分担して行っております。この種の事業は、構造調査・耐震診断・耐震改修コンサル等を統一した考え方で組織的に行うことにより、質の高い技術者を育成すると同時に、社会的な要請にも応えて行く重要な事業と考えております。
一方、耐震改修など社会資産の良好な維持保全を図っていく上では、既存構造物の安全性を的確に把握する構造調査が重要であり、現地で実態調査を行う調査員に対する教育・研修が必要です。当協会では2010年度に「建築構造調査士」の認定資格制度を創設し、調査水準を担保することを主眼とした調査技術向上への活動を行っております。調査結果に基づき診断・評価・設計を担当する1級建築士等の設計技術者と両翼の一端を担う相互関係にある資格として、この制度の広範な普及を推進しているところです。これまでに150名を超える有資格者が誕生しております。
当協会では、これまで以上に、既存構造物の総合的な安全性確保、さらには社会資産としての良好な維持保全、有効活用に寄与すべく、構造物評定委員会、技術図書刊行、無料相談などの公益事業、構造調査・耐震診断・耐震改修コンサル等の技術支援事業、会員向け講習会、見学会、研修会等の実施、資格制度(建築構造調査士)による専門家の育成などに幅広く取り組み、社会の要請に応じて進化していく団体をめざして、活動を推進して参る所存です。
当協会の会員企業は、技術者としての倫理を厳守し、高い技術品質のもとで使命を果たすことができるよう、技術力の向上と関連知識の吸収に日々努めております。ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
平成25年1月